Posted by なぎさ - 2010.06.03,Thu
自分の心の声が聞こえたかのようなタイミングに思わずギクリとなる。
訝しげに隼を見れば、 彼はベッドから腰を上げてこちらに歩み寄ってきた。
頬に伸ばされた手を甘んじて受けながら、 猫のように細められたその目をジッと見る。
…が、彼の思考は当たり前だが読みとれなかった。
そのまま隼は屈み込んでジョットの膝に顎を乗せてきた。
「頭なでなでとかしてくれたら嬉しいです」
「…あほか!!」
一気に顔が紅潮するのが分かってなんとなく悔しい。
そのまま両手でもって隼の頭を膝の上から押し除ければ、 向こうはケロッとした顔で残念、と呟いた。
動揺しているのがこちらだけというのが余計に悔しい。
「なんだよ慰めるって。重大なことってお前がらみのことなのか? 」
やっとのことでそれだけ絞り出せば、 隼は珍しく困ったように小さく首を傾けた。
彼がこんな顔をするのは本当に珍しい。
レアなものを見た気分になって少しだけ身を乗り出せば、 それに気づいた隼がすぐに顔をそらせた。
「…まぁ個人的にはそうです。 結果的には君が嬉しくないことにも繋がるでしょうけど…」
しゃべりすぎました、と早口に言うと、 隼は用は済んだと言わんばかりに部屋から立ち去ろうとする。
ここで帰るとかないだろう。
背を向けた彼のジャケットの裾をなんとかギリギリで掴むと、 ジョットも些か早口に一気にまくし立てた。
「おまえ9時にまたここに来い、予定ないだろ?」
本当は隼が言ったことをもっと言及したかったのだが、 これ以上話すつもりがなさそうな隼に言えたのはそれだけだった。
言われた隼は不思議そうな顔をしていたものの、 ジョットがもちろん他の皆も呼ぶと付け足すと、 それは残念と呟いて今度こそ部屋から出 ていった。
腕を軽く上げてひらひらと手を振る彼は、 もちろん全然残念そうには見えない。
“相変わらず自由な奴…“
ジョットはパタンと閉まったドアに向かって虚しく溜め息をついた 。
しかし、いつのもことかと思い直しすぐに立ち上がる。
あの様子ならば来てくれるだろう。…多分。
それよりも他の人に連絡を取らなければいけない。
…おそらく皆まだ部屋にいると思うが…
いや、いて欲しい。いてください。
ジョットは心の中で祈りながら部屋を出た。
頬に伸ばされた手を甘んじて受けながら、
…が、彼の思考は当たり前だが読みとれなかった。
そのまま隼は屈み込んでジョットの膝に顎を乗せてきた。
「頭なでなでとかしてくれたら嬉しいです」
「…あほか!!」
一気に顔が紅潮するのが分かってなんとなく悔しい。
そのまま両手でもって隼の頭を膝の上から押し除ければ、
動揺しているのがこちらだけというのが余計に悔しい。
「なんだよ慰めるって。重大なことってお前がらみのことなのか?
やっとのことでそれだけ絞り出せば、
彼がこんな顔をするのは本当に珍しい。
レアなものを見た気分になって少しだけ身を乗り出せば、
「…まぁ個人的にはそうです。
しゃべりすぎました、と早口に言うと、
ここで帰るとかないだろう。
背を向けた彼のジャケットの裾をなんとかギリギリで掴むと、
「おまえ9時にまたここに来い、予定ないだろ?」
本当は隼が言ったことをもっと言及したかったのだが、
言われた隼は不思議そうな顔をしていたものの、
腕を軽く上げてひらひらと手を振る彼は、
“相変わらず自由な奴…“
ジョットはパタンと閉まったドアに向かって虚しく溜め息をついた
しかし、いつのもことかと思い直しすぐに立ち上がる。
あの様子ならば来てくれるだろう。…多分。
それよりも他の人に連絡を取らなければいけない。
…おそらく皆まだ部屋にいると思うが…
いや、いて欲しい。いてください。
ジョットは心の中で祈りながら部屋を出た。
PR
Posted by なぎさ - 2010.05.31,Mon
少し深く息を吸い込めばつんと鼻をさす畳の匂い。
檜の匂い。
頬に感じるのは、僅かに開いた障子の隙間から入り込む、 少しひやりとする早朝の風。
何も置いていない、邪魔な物は一切排除された空間。
そこに在るのはただそこに居る人間のみ。
ぴりりとした空気はそこにいる人間を品定めするかのようにそこに ある。
嫌いではない。
しかし、 今に限ってはそれらは体中に感じるぴりぴりとした緊張を余計に助 長させるだけであった。
目を開けなくても感じる。視線を…
そして、実際に瞼を持ち上げてみれば、 やはり瞬きもせずにこちらを見ている鋭い双眸と目があった。
「いきなりの事であることは重々承知している。しかし、今日… 今晩に急遽決まった。心してかかるように」
正座したまま無言で頭を下げる。
こちらへの配慮なんて微塵も感じられない威圧的な言葉。
逆らうことなど、許されていない。
堪えろ、飲み込め、このもやもやをしまい込め。
感情を無にしろ、全てを受け入れろ。
自分に言い聞かせていないと頭がおかしくなってしまう。
だから何度も心の中で呟く。繰り返す。
そう、運命を自分で選ぶことなんて、許されていないのだから…
***
「…起きてください」
靄のかかった頭に響く、低くて深い声。
しかし頭が働いていないせいか、 声はただの音声として右から左の耳へと抜けていくようだった。 意味のあるのものとして認識できない。
「…起きないと、悪戯しちゃいますよ」
「!?」
頭ではなく身体が先に反応した。
反射的に飛び起きた先で視界の半分以上を占めてきたのは…
「はっ、はやっ!?…ちょ!近っ!!」
「近いのは僕のせいではないですよね」
一気に目が覚めた。
もちろん頭もバリバリに覚醒した。
目の前で呆れたような視線を送ってくるのはもちろん隼であること は瞬時に把握できている。
そしてその彼はと言えば、 優雅に足を組んでジョットのベッドにちゃっかり座っていた。
「…もうどうやって入ってきたとか聞かないけど」
ジョットはため息を一つつくとベッドから降りた。
今日は騒がないんですね、 と若干残念そうに呟く隼は無視して時計に目をやる。
午前6時45分。
まぁ、若干早いものの二度寝するほどの時間ではない。
… と思ったがそういえば今日は校舎工事のため一日休校だった気がす る。バリバリ二度寝できる。
しかし隼が陣取っているベッドに再び戻るのも気が進まないので、 そのまま椅子の背に掛けてあった上着だけ羽織って椅子に腰掛けた 。
「…で、俺に何か用だった?」
何気なく視線を戻せば、 こちらをジッと見つめている隼と目があった。
「…君に話せない重大なことが…」
「話せないなら俺はどうやってそれを知るんだ」
まぁそうなんですけどねー、と隼が至極軽い調子で足を組み直す。
わざわざ言いに来たということはよっぽど重大なことなのだろうが 、教えてもらえないことにはどうしようもない。
いったい隼は自分にどうしてほしいのか。
「慰めて欲しいんです」
「は?」
檜の匂い。
頬に感じるのは、僅かに開いた障子の隙間から入り込む、
何も置いていない、邪魔な物は一切排除された空間。
そこに在るのはただそこに居る人間のみ。
ぴりりとした空気はそこにいる人間を品定めするかのようにそこに
嫌いではない。
しかし、
目を開けなくても感じる。視線を…
そして、実際に瞼を持ち上げてみれば、
「いきなりの事であることは重々承知している。しかし、今日…
正座したまま無言で頭を下げる。
こちらへの配慮なんて微塵も感じられない威圧的な言葉。
逆らうことなど、許されていない。
堪えろ、飲み込め、このもやもやをしまい込め。
感情を無にしろ、全てを受け入れろ。
自分に言い聞かせていないと頭がおかしくなってしまう。
だから何度も心の中で呟く。繰り返す。
そう、運命を自分で選ぶことなんて、許されていないのだから…
***
「…起きてください」
靄のかかった頭に響く、低くて深い声。
しかし頭が働いていないせいか、
「…起きないと、悪戯しちゃいますよ」
「!?」
頭ではなく身体が先に反応した。
反射的に飛び起きた先で視界の半分以上を占めてきたのは…
「はっ、はやっ!?…ちょ!近っ!!」
「近いのは僕のせいではないですよね」
一気に目が覚めた。
もちろん頭もバリバリに覚醒した。
目の前で呆れたような視線を送ってくるのはもちろん隼であること
そしてその彼はと言えば、
「…もうどうやって入ってきたとか聞かないけど」
ジョットはため息を一つつくとベッドから降りた。
今日は騒がないんですね、
午前6時45分。
まぁ、若干早いものの二度寝するほどの時間ではない。
…
しかし隼が陣取っているベッドに再び戻るのも気が進まないので、
「…で、俺に何か用だった?」
何気なく視線を戻せば、
「…君に話せない重大なことが…」
「話せないなら俺はどうやってそれを知るんだ」
まぁそうなんですけどねー、と隼が至極軽い調子で足を組み直す。
わざわざ言いに来たということはよっぽど重大なことなのだろうが
いったい隼は自分にどうしてほしいのか。
「慰めて欲しいんです」
「は?」
Posted by なぎさ - 2010.01.19,Tue
彼らの実力を見て、感じた。
あぁ、こいつらだ…と。
皆には悪いが、この襲撃は皆の本気を知る絶好の機会。
利用、させてもらう。
「なぁ泰夫」
「んー?」
スタート宣言した後バラバラに散った一行だが、ジョットはちゃっかり泰夫の横に並んでいた。
ジョットが記憶を辿るに、文献には明治維新後に陰陽師のような業は厳重に規制されたため、その跡は絶ったとされていたはずだ。しかしさっき一樹は『陰陽道』と言わなかったか?
「おまえさ、陰陽師ってやつなのか?」
「……そうだったら?」
「別に他意はないけど…あんな人間離れした技、初めて見たから。すごいな、と…」
「俺から言わせればジョットのほうが人間離れしてるけどね」
ポソリと呟かれた泰夫の言葉は、ジョットが敵に向かって一気に加速したため彼の耳に入ることはなかった。
こちらに向かって銃を構える敵、5人ほどだが、装填前の状態では到底ジョットのスピードには追いつかない。敵が引き金を引いたときには、すでにジョットは彼らの背後に回り込んでいた。
目の前から消えた相手に呆然とする敵に、背後から容赦ない殴打が降り注ぐ。死ぬ気の炎で殴られれば一発でダウンしない者はいないに等しかった。
「…ジョットと一緒だと俺絶対最下位な気がする」
「ん?なんか言ったか泰夫」
「じゃあね」
敵を沈めて朗らかにこちらを振り返ったジョットに、泰夫は片手をあげてすぐに身を翻す。いきなり逃亡した泰夫に呆然としていたジョットだったが、すぐに我に返って遠ざかる背中を追おうとした。
…が、
「僕と一緒に行きましょう家康くん!」
「ぐえっ!?」
背後から誰かにタックルされて豪快に前につんのめった。
きっと相手は抱きついたつもりに違いない。
「…あぁ、フられて可哀想な家康くん。僕なら君とずっと一緒にいてあげますよ?」
前のめりになったままの背中に走る悪寒。
「っ、なんのつもりだ隼!」
というかいつの間にいたのか。
体勢を立て直すと同時に隼の腕を振りほどいてジョットは目の前の男と向かい合った。
思い切り睨みつけてやれば、反対に向こうはニコリと笑う。
「いえ、一人じゃ寂しいのではないかと思いまして」
「俺は泰夫といたかったんだ」
「詮索者は嫌われますよ~」
「…おまえはどうなんだよ」
「僕のことは君が望むのでしたら、それこそいくらでも!むしろ詮索して欲しいくらいですよ」
両手を広げて嬉しそうにそう言う隼に、ジョットは盛大に顔をしかめた。
駄目だ、こいつと話してると頭が痛くなる。
「早く、知ってくださいね」
「え?」
顔を上げてふと見えた隼の顔が一瞬真面目なものにみえて、思わず息を飲む。
時々不意に見せるその顔が…激しく自分を不安にさせる。
いつも薄っぺらい顔ばかり見せてくるくせに、どうして時折そんな顔を見せる。
「おまえは…いったい俺にどうして欲しいんだ…」
「余所見してていいんですか家康くん」
軽い動作で投げられた小刀がジョットの脳天のすぐ上を飛ぶ。
それは正確にナイフを振り上げる後方の敵の手首に刺さった。
「別に。これくらい真後ろに来てからでも十分だろ」
相変わらず大事なところだけはぐらかされる。
あからさまにおもしろくない顔をしているであろう自分を見て、隼はクスクスと含み笑いを漏らしている。
「何がおかしいんだ」
「いえ、いいんですか?勝負…あっさり僕に回してしまって…」
「…………、っあーーーーー!!!」
完全に頭から飛んでいた。
Posted by なぎさ - 2010.01.15,Fri
「僕たちのサポートをお願いします」
「サポートって…」
飛び降り際に、目の端に残り全員が頷くのが見えた。
とりあえず、当たって砕けろという感じか…
砕けたら困るが。
ヘリはここから見える位置にいる。というか、のこのこと外に出てきた自分たちを見事に狙っている。
隼に降ろされたジョットは、隼を背に回してすぐさま片手を空に突きだした。それと同時に相手も引き金を引く。
相手のマシンガンか何かの銃声が重なって聞こえるが、ジョットたちと銃弾の間にできた炎の壁により、その銃弾が一行に届くことはなかった。
十数秒続いていた音だが、不意にそれが途切れた。おそらく弾切れ。
”同時に弾切れとか…本当にこいつらプロか…”
「って、ふわぁあああっっ!?」
呆れの意も込めて眉を顰めたジョットだが、不意に耳元に息を吹きかけられ、驚愕と気持ちの悪さでバランスを崩した。そのまま地面に倒れ込みそうになるのをすんでのところで堪えて前に立った人物をキッと睨み上げる。
「泰夫」
「うん」
しかし相手はこちらにちらりと視線を寄越しただけで、自分ではない名前を呟くとすぐに前を向いてしまった。同時に横に並んだ泰夫が懐から二枚の札を取り出す。赤い字で何か書いてあるようだが生憎ジョットからはよく見えなかった。
壁が消えて2秒。
泰夫が何かを早口で詠唱するのがジョットの耳にも届いた。
「木は土に、土は水に、水は火に、火は金に、金は木に…」
詠唱中に別方向に投げられた札に向かって、隼が更に刃の細い小刀を投げる。それは見事に札に刺さり、二本ともがそのまま上空にいるヘリの腹へと突き刺さった。
それと同時に泰夫が指で大きく五芒星を斬る。
「五行相克…火剋金!」
瞬間、ヘリの腹が白く光ったかと思うと、轟音とともに爆発が起こり、真っ赤な炎がヘリを包み込んだ。
ぐらりと傾いたヘリからすぐに二人、三人とパラシュートで人が降下してくる。そのパラシュート本体や担ぐ人の足に容赦なく突き刺さる刀。
勿論それで無事に着地できるはずがなく、地面に降り立つ人から順にその場に崩れ落ちていく。その脇に黒い煙を上げたヘリが墜落し、爆発とともに爆風をグラウンドに巻き起こした。
「ちょっ…」
その爆風に前髪を攫われ唖然とするしかないジョットに、振り返った隼がニヤリと笑う。
「殺さなければ…いいんでしたよね?」
全身重傷の火傷を負っていそうな雰囲気だが、確かに地面に横たわる人たちはピクピクと震えていた。死んではいない。
この場合、少なくとも20m以上離れたヘリや人に確実に刀を命中させる隼の腕力とコントロールを賞賛すべきなのか、人間業ではない遠隔攻撃をいとも簡単に成し遂げる泰夫の偉業に感嘆すべきなのか。
いや、でも隼は自分を下がらせるためとはいえ耳元に息を吹きかけるとかいう絶対趣味でやったに違いない行為をしてきたから賞賛はなしだ他にも下がらせる方法はくらでもあるのにちくしょう!などと回らない頭で悶々とどうでもいいことを考えるジョットのすぐ前に、その張本人である隼が立った。
「いつまでぼさっとしてるつもりです?ヘリは落としましたよ」
その声でハッと我に返る。
そうだ。ぼさっとしている場合ではない。勝負はこれからなのだ。
しかし謝罪の一つもないのかコイツは。
そんなジョットの視線に気づいているのか気づいていないのか、隼は口元を笑わせたまま僅かに目を細めるとすぐに背を向けてしまった。結論。絶対に気づいている。
「久々に見たな、泰夫の陰陽道」
「あんまり好きじゃないし。疲れるし」
ジョットの葛藤などつゆ知らず、先ほどのジョットたち同様窓から出てきた一樹が泰夫の頭を軽く叩く。
その後に信二、サンサニー、髀子も出てきて一行は自然に輪の形に並んだ。
全員が顔を見合わせた瞬間不敵に笑う。
「さて、泰夫の情報だと、外にいるのは200人くらいらしいけど…」
「じゃあザッと一人で30人ちょいってとこか?」
「楽勝ダネー」
「そんじゃ、ちゃんと倒した数数えとけよ。一番少なかった奴が、」
「「「「「「昼飯全員分奢り!」」」」」」
「サポートって…」
飛び降り際に、目の端に残り全員が頷くのが見えた。
とりあえず、当たって砕けろという感じか…
砕けたら困るが。
ヘリはここから見える位置にいる。というか、のこのこと外に出てきた自分たちを見事に狙っている。
隼に降ろされたジョットは、隼を背に回してすぐさま片手を空に突きだした。それと同時に相手も引き金を引く。
相手のマシンガンか何かの銃声が重なって聞こえるが、ジョットたちと銃弾の間にできた炎の壁により、その銃弾が一行に届くことはなかった。
十数秒続いていた音だが、不意にそれが途切れた。おそらく弾切れ。
”同時に弾切れとか…本当にこいつらプロか…”
「って、ふわぁあああっっ!?」
呆れの意も込めて眉を顰めたジョットだが、不意に耳元に息を吹きかけられ、驚愕と気持ちの悪さでバランスを崩した。そのまま地面に倒れ込みそうになるのをすんでのところで堪えて前に立った人物をキッと睨み上げる。
「泰夫」
「うん」
しかし相手はこちらにちらりと視線を寄越しただけで、自分ではない名前を呟くとすぐに前を向いてしまった。同時に横に並んだ泰夫が懐から二枚の札を取り出す。赤い字で何か書いてあるようだが生憎ジョットからはよく見えなかった。
壁が消えて2秒。
泰夫が何かを早口で詠唱するのがジョットの耳にも届いた。
「木は土に、土は水に、水は火に、火は金に、金は木に…」
詠唱中に別方向に投げられた札に向かって、隼が更に刃の細い小刀を投げる。それは見事に札に刺さり、二本ともがそのまま上空にいるヘリの腹へと突き刺さった。
それと同時に泰夫が指で大きく五芒星を斬る。
「五行相克…火剋金!」
瞬間、ヘリの腹が白く光ったかと思うと、轟音とともに爆発が起こり、真っ赤な炎がヘリを包み込んだ。
ぐらりと傾いたヘリからすぐに二人、三人とパラシュートで人が降下してくる。そのパラシュート本体や担ぐ人の足に容赦なく突き刺さる刀。
勿論それで無事に着地できるはずがなく、地面に降り立つ人から順にその場に崩れ落ちていく。その脇に黒い煙を上げたヘリが墜落し、爆発とともに爆風をグラウンドに巻き起こした。
「ちょっ…」
その爆風に前髪を攫われ唖然とするしかないジョットに、振り返った隼がニヤリと笑う。
「殺さなければ…いいんでしたよね?」
全身重傷の火傷を負っていそうな雰囲気だが、確かに地面に横たわる人たちはピクピクと震えていた。死んではいない。
この場合、少なくとも20m以上離れたヘリや人に確実に刀を命中させる隼の腕力とコントロールを賞賛すべきなのか、人間業ではない遠隔攻撃をいとも簡単に成し遂げる泰夫の偉業に感嘆すべきなのか。
いや、でも隼は自分を下がらせるためとはいえ耳元に息を吹きかけるとかいう絶対趣味でやったに違いない行為をしてきたから賞賛はなしだ他にも下がらせる方法はくらでもあるのにちくしょう!などと回らない頭で悶々とどうでもいいことを考えるジョットのすぐ前に、その張本人である隼が立った。
「いつまでぼさっとしてるつもりです?ヘリは落としましたよ」
その声でハッと我に返る。
そうだ。ぼさっとしている場合ではない。勝負はこれからなのだ。
しかし謝罪の一つもないのかコイツは。
そんなジョットの視線に気づいているのか気づいていないのか、隼は口元を笑わせたまま僅かに目を細めるとすぐに背を向けてしまった。結論。絶対に気づいている。
「久々に見たな、泰夫の陰陽道」
「あんまり好きじゃないし。疲れるし」
ジョットの葛藤などつゆ知らず、先ほどのジョットたち同様窓から出てきた一樹が泰夫の頭を軽く叩く。
その後に信二、サンサニー、髀子も出てきて一行は自然に輪の形に並んだ。
全員が顔を見合わせた瞬間不敵に笑う。
「さて、泰夫の情報だと、外にいるのは200人くらいらしいけど…」
「じゃあザッと一人で30人ちょいってとこか?」
「楽勝ダネー」
「そんじゃ、ちゃんと倒した数数えとけよ。一番少なかった奴が、」
「「「「「「昼飯全員分奢り!」」」」」」
Posted by なぎさ - 2009.12.13,Sun
「・・・で、一樹たちは?」
まだ青ざめたままのジョットが隼…ではなく泰夫を振り返る。
「あぁ、別ルートから降りてきてるはず」
そのうちにぶつかるんじゃない?
そう言って康夫が立ち上がったのを合図に、一同はそろって敵が転がる廊下の先を見据えた。
「今僕ガ一番倒シタ数多インジャナイカナ!?」
「馬鹿言え!一樹さまが一番に決まってんだろ!?」
「ガンスリンガーなめんなぁあぁああっっ!!」
それとほぼ同時刻、騒がしく廊下を駆ける集団があった。その数十メートル以内は、敵はもちろん、同じ同級生さえも畏れおののき近くの教室に避難するほどの危険区域だった。その集団が通る先には銃弾や針が飛び交い、通った後には、壁が剥がれ落ち、窓が割れ、天井に亀裂が入っているという見るも無惨な景色が広がっているのだから当然といえば当然かもしれないが。
「よっしゃ!下降りるぞ!」
一樹が走りながら階段の前で待ちかまえる敵数人に向かって針を飛ばす。真っ正面から高速で飛んでくる針など並大抵の人に認識出来るはずがない。よしんば見えたとしても遠近感を掴むのは恐ろしく難しいだろう。
階段の前にいた敵も例に違わず、避けることもかなわず後ろ向きに倒れた。
「おい信二!おまえもっと撃ちまくれよ!針がもったいない!」
「弾だってただじゃねーんだぞ!?おまえこそもっと飛ばしまくれ!」
「アーア!ヤダネェ~!コレダカラ道具ニ頼ルヤツラハ!」
階段から先頭に立ったサンサニーが、踊り場にいた敵を階段下のフロアにたたきつけながら華麗に着地する。
サンサニーよりほんの少し遅れて階段を下りきった一樹と信二は、同時に廊下に突っ伏した。
その瞬間、ガラスの割れるけたたましい音とともに二人の真上を銃弾の雨が通り過ぎる。
「やっべあぶねぇええぇ!!」
真っ青になった一樹が顔を上げると同時に、隣で上半身だけ起こした信二が銃を二丁窓の外へと向ける。躊躇いなく引き金を引かれたそれからは二発の弾が撃ち出され、それは見事に窓の外から狙い撃ちしてきた二人の敵へと命中した。敵が崩れ落ちるのを見届けてから信二はキョロキョロと周りを見渡した。
「あれ?サンサニーは…?」
「アブナイアブナイ!」
天井に張り付いていた。
「おい!おまえホントにありえねーから!」
「てかずりーよ!」
「二人モ真似シテミレバー?」
「「出来るかーー!!」」
ついさっき命の危機に瀕したばかりだというのに、この場にはもはや緊張感の欠片すらない。
しかし、とりあえずこれで一樹たちも一階へ下りたことになる。
「っていうか、あれジョットたちじゃね?」
そして少し先にいるジョットたちが見つかるのは当然のことだった。
「……で、結局こうなるわけなんだな…」
「っていうかジョットなんでいんの?謹慎中じゃなかったの?」
見事に10秒後には合流していたりする。
ジョット、隼、髀子、泰夫、一樹、信二、サンサニー、見事にいつものパーティーメンバーが揃ってしまった。
後は校舎から出るだけ…だが、ここからが修羅場だということはこの場の誰もが分かっている。
「まぁ、詳しい事情は後にして、とりあえず俺らが外の敵を壊滅させれば万事OKってことだ」
外から見えないように壁に一列に並びながら真ん中のジョットが呟く。全員がコクリと頷くと同時に腰を僅かに浮かせた。
「それが一番手っ取り早いというか、俺ららしいというか…」
一樹がニヤリと笑ってジョットに視線をやる。
「とりあえずあれでしょ。ヘリをどうするかでしょ」
泰夫が相変わらず眠そうな顔で同じくジョットを見る。
「そうなんだよなぁ…俺がやると中の人たち殺しかねないしなぁ…」
「俺の持ってる銃じゃさすがに無理だぜ?」
「刀もさすがに…」
「針も無理」
「幻覚だと最悪校舎に突っ込まれるかも…」
「僕モ流石ニ届カナイヨー!」
「ってことで俺がやればいいってことかな」
うんうんと一人頷く泰夫に全員の視線が集まる。少なくともジョットの目には驚きの色が浮かんでいた。泰夫が式紙以外を使って攻撃をしているのを見たことがない。しかし他のメンバーは泰夫の発言に驚いている様ではあっても、言葉の内容に驚いているわけではなさそうだった。
「じゃあ、任せるぞ」
「オーライ」
そう言うと同時に泰夫は立ち上がった。
「はっ?」
固まるジョットを余所に、泰夫は窓をガラガラと開けると窓の桟に足をかけて外に飛び出す。突発的すぎる展開に思考がついていっていないジョットを、隣にいた隼が首根っこをひっ掴んで立たせた。
「何ボサッとしてるんですか。行きますよ」
「は?え?」
あれよという間に隼に抱えられて間抜けな声を出したジョットだが、次の瞬間自らも窓の外に飛び出したのに気づいて一気に青ざめた。
「待って!待っ…ちょぉおおぉおぉおっっ!!」
まだ心の準備が出来ていないというか、作戦を全く立てていないというか、泰夫がどういった方法でヘリを落とすのか分からないというか…
「とりあえず俺は何をすれば…!」
まだ青ざめたままのジョットが隼…ではなく泰夫を振り返る。
「あぁ、別ルートから降りてきてるはず」
そのうちにぶつかるんじゃない?
そう言って康夫が立ち上がったのを合図に、一同はそろって敵が転がる廊下の先を見据えた。
「今僕ガ一番倒シタ数多インジャナイカナ!?」
「馬鹿言え!一樹さまが一番に決まってんだろ!?」
「ガンスリンガーなめんなぁあぁああっっ!!」
それとほぼ同時刻、騒がしく廊下を駆ける集団があった。その数十メートル以内は、敵はもちろん、同じ同級生さえも畏れおののき近くの教室に避難するほどの危険区域だった。その集団が通る先には銃弾や針が飛び交い、通った後には、壁が剥がれ落ち、窓が割れ、天井に亀裂が入っているという見るも無惨な景色が広がっているのだから当然といえば当然かもしれないが。
「よっしゃ!下降りるぞ!」
一樹が走りながら階段の前で待ちかまえる敵数人に向かって針を飛ばす。真っ正面から高速で飛んでくる針など並大抵の人に認識出来るはずがない。よしんば見えたとしても遠近感を掴むのは恐ろしく難しいだろう。
階段の前にいた敵も例に違わず、避けることもかなわず後ろ向きに倒れた。
「おい信二!おまえもっと撃ちまくれよ!針がもったいない!」
「弾だってただじゃねーんだぞ!?おまえこそもっと飛ばしまくれ!」
「アーア!ヤダネェ~!コレダカラ道具ニ頼ルヤツラハ!」
階段から先頭に立ったサンサニーが、踊り場にいた敵を階段下のフロアにたたきつけながら華麗に着地する。
サンサニーよりほんの少し遅れて階段を下りきった一樹と信二は、同時に廊下に突っ伏した。
その瞬間、ガラスの割れるけたたましい音とともに二人の真上を銃弾の雨が通り過ぎる。
「やっべあぶねぇええぇ!!」
真っ青になった一樹が顔を上げると同時に、隣で上半身だけ起こした信二が銃を二丁窓の外へと向ける。躊躇いなく引き金を引かれたそれからは二発の弾が撃ち出され、それは見事に窓の外から狙い撃ちしてきた二人の敵へと命中した。敵が崩れ落ちるのを見届けてから信二はキョロキョロと周りを見渡した。
「あれ?サンサニーは…?」
「アブナイアブナイ!」
天井に張り付いていた。
「おい!おまえホントにありえねーから!」
「てかずりーよ!」
「二人モ真似シテミレバー?」
「「出来るかーー!!」」
ついさっき命の危機に瀕したばかりだというのに、この場にはもはや緊張感の欠片すらない。
しかし、とりあえずこれで一樹たちも一階へ下りたことになる。
「っていうか、あれジョットたちじゃね?」
そして少し先にいるジョットたちが見つかるのは当然のことだった。
「……で、結局こうなるわけなんだな…」
「っていうかジョットなんでいんの?謹慎中じゃなかったの?」
見事に10秒後には合流していたりする。
ジョット、隼、髀子、泰夫、一樹、信二、サンサニー、見事にいつものパーティーメンバーが揃ってしまった。
後は校舎から出るだけ…だが、ここからが修羅場だということはこの場の誰もが分かっている。
「まぁ、詳しい事情は後にして、とりあえず俺らが外の敵を壊滅させれば万事OKってことだ」
外から見えないように壁に一列に並びながら真ん中のジョットが呟く。全員がコクリと頷くと同時に腰を僅かに浮かせた。
「それが一番手っ取り早いというか、俺ららしいというか…」
一樹がニヤリと笑ってジョットに視線をやる。
「とりあえずあれでしょ。ヘリをどうするかでしょ」
泰夫が相変わらず眠そうな顔で同じくジョットを見る。
「そうなんだよなぁ…俺がやると中の人たち殺しかねないしなぁ…」
「俺の持ってる銃じゃさすがに無理だぜ?」
「刀もさすがに…」
「針も無理」
「幻覚だと最悪校舎に突っ込まれるかも…」
「僕モ流石ニ届カナイヨー!」
「ってことで俺がやればいいってことかな」
うんうんと一人頷く泰夫に全員の視線が集まる。少なくともジョットの目には驚きの色が浮かんでいた。泰夫が式紙以外を使って攻撃をしているのを見たことがない。しかし他のメンバーは泰夫の発言に驚いている様ではあっても、言葉の内容に驚いているわけではなさそうだった。
「じゃあ、任せるぞ」
「オーライ」
そう言うと同時に泰夫は立ち上がった。
「はっ?」
固まるジョットを余所に、泰夫は窓をガラガラと開けると窓の桟に足をかけて外に飛び出す。突発的すぎる展開に思考がついていっていないジョットを、隣にいた隼が首根っこをひっ掴んで立たせた。
「何ボサッとしてるんですか。行きますよ」
「は?え?」
あれよという間に隼に抱えられて間抜けな声を出したジョットだが、次の瞬間自らも窓の外に飛び出したのに気づいて一気に青ざめた。
「待って!待っ…ちょぉおおぉおぉおっっ!!」
まだ心の準備が出来ていないというか、作戦を全く立てていないというか、泰夫がどういった方法でヘリを落とすのか分からないというか…
「とりあえず俺は何をすれば…!」
カレンダー
最新記事
(10/01)
(09/28)
(09/27)
(09/18)
(09/14)
ブログ内検索
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"