Posted by なぎさ - 2009.05.23,Sat
「…悪い子ですね…」
ニヤリと口元を歪めた骸が綱吉に向かって腕を振り上げる。綱吉はグッと唇を噛んだ。その瞬間額から吹き出す炎。骸の手刀をかわすと、綱吉は未だにほうけているほうの骸を抱き抱えてそのまま後ろに跳びずさった。
「つな、よ…」
「さがってろ。あぶないから…」
有無を言わさずに屋上の端の方へと骸を追いやる。ようやく金縛りが解けた骸は、おずおずと綱吉を見た。
自分の知らない綱吉。
その額の炎は太陽の光と混じってキラキラと輝いていて、その瞳も…炎をそのまま宿したかのような綺麗な橙色。そしてその表情は…こちらが切なくなるくらい悲しくて…
意味もなく綱吉のほうへ伸ばした手は、届かずにそのまま地面へと落ちた。すでに骸に背を向けて走り出していた綱吉は、骸が手を伸ばしたことすら気づいていなかったかもしれない。
何も掴めなかった手が冷えていく。
胸のもやもやが、止まらない。
「どうしてそこまで彼の肩を持つんですか?」
目を細め、些か不機嫌そうな骸が綱吉に向かって大袈裟にため息を吐く。
「おまえがっ、殺そうとするからだろっ!?」
骸に向かって振りかぶられた拳は軌道を読まれていたかのようにギリギリのところでかわされる。一瞬バランスを崩してふらついた綱吉に、骸はニヤリと口端をつり上げた。すばやく綱吉の手首を掴むと、こちらに身体を向かせる。驚愕に目を見開く綱吉を楽しそうに見ると、次の瞬間、骸は後ろに振り上げた足をそのままの勢いで綱吉の腹へと食い込ませた。
「がは…っ!」
同時に手首を放された綱吉が後ろへ吹っ飛ぶ。数メートル宙を飛んだ綱吉はそのまま地面へと叩きつけられた。
「ほらほら、今そこで跪いて泣いて許しを請えば許してあげてもいいですよ」
「だ…れ、が…」
軽く咽せ、ふらつきつつも立ち上がった綱吉を見て、骸は更に笑みを深めた。
「お仕置きされたいんですか?まったく…」
骸の手に三叉槍が握られる。綱吉の拳に炎が灯る。
「意地でも…止める!!」
本気で、止める。
数メートル離れた骸に向かって突き出された右腕。綱吉の周りの空気が一瞬で変わる。
一方、骸が三叉槍を少し持ち上げれば、その周りから禍々しい真っ黒なオーラが渦巻いた。そして骸が一歩綱吉のほうへ足を踏み出した瞬間、
爆炎が、屋上を呑み込んだ。
「っ!?」
直前に身体ごと地面に伏せた骸の頭上を灼熱の炎が駆け抜ける。対峙していた二人がどうなったのか気になってそろりと顔を上げてみるが、熱風が顔面を直撃して慌てて顔を伏せた。
こんなものを真っ正面から食らったらいくらなんでもあの男もただではすまないのではないかと思う骸だが、確認しようにも出来ない。
しばらく経って熱がおさまったのを感じると、骸はやっとこさそろそろと起きあがった。
「綱吉、くん…?」
一番はじめに目に入ったのは、
地面に突っ伏して倒れている、綱吉。
「綱吉くん!!」
急いで駆け寄れば、骸の姿を横目で捉えた綱吉が地面に転がった状態のままへらりと笑った。
「ごめ…大丈夫…?巻きぞい、食らわなかった…?」
大丈夫ですと小さく答えて綱吉を抱き起こす。その肌に触れて、思わずギクリとなった。冷たかったからではない。…逆に、ひどく熱かったから…
「はは…逃げたね、骸…」
「え…?」
自分ではなく、あちらの骸のことだと一拍置いて理解する。慌てて周りを見れば、確かに自分と綱吉の他には屋上には誰にもいなかった。
「いったい…」
「あーぁ…やっぱり…だめ…か、ぁ……」
自虐的な笑みを浮かべると、綱吉はことりと気を失った。
「はっ、え!?つなっ、綱吉くん!?」
空は暗みを増す。
西が淡く朱色に染まり始める。
「ちょ…僕にどうしろっていうんですか…」
途方に暮れて空を見上げる。
下校生徒の喧騒が遙か遠くに感じられた。
PR
カレンダー
最新記事
(10/01)
(09/28)
(09/27)
(09/18)
(09/14)
ブログ内検索
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"